フィレンツェの時をまとう ― Firenze in Translation

加藤順子さんが最初に選んだのは、花びらが幾重にも重なる情景に着想を得た「ペタローゾ」。つけた瞬間、これまで苦手に感じていたローズ系の香りの印象が変わったといいます。「ローズ系の香りは甘すぎたりフェミニンすぎたりして、自分には合わないと思っていたんです。でも『ペタローゾ』は、甘さの奥に辛口なニュアンスがあって、すごくしっくりきました。女性らしさはあるけど瑞々しくてクリア。30代半ばを迎えてホルモンの揺らぎを感じる今の私に、ふわっと寄り添ってくれるような香りです。ローズ系で『また使いたい』と思えたのは初めてでした」。

 

この香りに合わせたのは、甘さを抑えたクールなホワイトドレス。「特別な日でなくてもドレスアップを楽しむのが好きなんです。ローズは“かわいい”イメージが強いと思いますが、『ペタローゾ』はまとった人の周囲の空気をやわらげてくれる香り。だからあえて、エッジの効いた白のドレスに重ねました。そこにひとさじの優しさを足すような感覚です」。

 

トップからラストへと移ろう香りは、華やかさの中にスパイシーな芯を秘めたまま続きます。「時間が経っても魅力が変わらず、普段の香水のレパートリーに加えたいほど気に入りました」。

「診療のときは香水をつけられないんです。でも、肌に寄り添うようなボディオイルなどで、自分だけにわかるやわらかい香りをほんのりまとうようにしています。診療以外の時間は必ず香水をつけますね。朝の支度の最後に、その日の気分や予定に合わせて。特別な予定がなくても、気持ちを切り替えるためにまとうこともあります」。

加藤さんにとって、香りは日常を支える存在でもあります。「ディレクターとしてブランドとコラボレーションしてきた経歴から、イベントやパーティに呼んでいただくことも多いのですが、実は得意ではないんです。知らない人が多い場ではすぐ疲れてしまって。でもお気に入りの香りをまとっていると、落ち着いて普段通りに振る舞える気がします。初対面の方に『いい香りですね』と声をかけてもらえて、会話が始まることも。目に見えない香りだからこそ、広がる空間そのものを含めて“自分らしさ”を伝えてくれる。語らずともパーソナリティを表現し、人と人をつないでくれる存在だと感じます。今回トライした『ペタローゾ』の香りも、私の個性を静かに語ってくれそうです」

次に選んだのは「ノッテテンポ」。シックな黒のドレスと響き合い、夜の秘密を抱くような濃厚でまろやかな香りです。「『ノッテテンポ』は、照明を落とした落ち着いたバーが似合いますね。普段は重めの香りを選ばないので、新しい自分を演出できると思いました。まとうだけで“いつもと違う夜”に誘ってくれる感覚があります」。
撮影でもブラックドレスを選び、そのイメージを表現してくれました。「大勢が集う華やかなパーティではなく、自分と向き合える静かな夜を思い描きました。親密で深さのあるひとときに似合う香りです」。

 

ファーストノートはリキュールのように濃厚でまろやか。時間の経過とともに温かみを増し、肌に馴染んでいきます。「最初は“強いかな”と思ったのですが、だんだんと落ち着いた香りに変わりました。香りと自分が親密になっていくようで、変化の過程で寄り添ってくれるのが面白いですね」。

 

「香りは、視覚以上に人の記憶に刻まれると思います」と語る加藤さんは、「ノッテテンポ」の香りの濃厚さから、子どもの時代の父の記憶がよみがえったといいます。「父はムスク系の香りを愛用していて、家中に漂っていたんです。スーツをこよなく愛し、その装いに合わせて香水を楽しんでいました。当時は小学生だった私は、その重厚な匂いが苦手でやめてほしいって思っていたのですが(笑)。大人になった今は、シーンに合わせて楽しむのもいいなと思えるようになりました」。

最後に、「香りとは?」と尋ねると、加藤さんは少し考えてから答えてくれました。「香りとは“気配”だと思います。人と人が初めて近くで会ったとき、“この人はこういう気配を持っているんだ”と伝えてくれる。最後に香水を重ねてこそ、自分らしさが完成するように感じます。だからつけ忘れると、自分の存在が小さくなったようで落ち着きません。毎日身につけているお守りのアクセサリーを着け忘れてしまったような気持ちになります」。

 

自分らしい香りを選ぶ基準については“直感”と“変化”だと語る。「嗅いだ瞬間に“フィットする”と感じられること。そして時間の移ろいの中で、さらに好きになれること。他の人がつけていた香りが気に入って真似しても、自分には似合わないこともあります。だからこそ、一度フィットする香りに出会えたら、必ずリピートしますね」

歯科医師。株式会社平尾賛平商店 代表取締役。2015年にモデル活動を始め、Instagramで発信するライフスタイルが注目を集める。アパレル、雑貨、インテリアなど多彩な分野で企業とのコラボレーション商品を発表。現在は歯科医師として診療に従事する傍ら、2024年よりオーラルケアブランド「平尾賛平商店」を運営している。 


「ペタローゾ」は花びらが豊かに重なり合う情景から着想を得たオードパルファム。フルーティーでフローラルな調和が描くのは、優しい風が吹き抜けるバラ園のイメージ。花びらから集められたアロマが甘くスパイシーに広がり、風に乗って優雅に香り立ちます。パチュリと金木犀のブーケにローズジャムとピンクペッパーが重なり、華やかな女性らしさの中にクリアで辛口なニュアンスを秘め、抗えない魅力を放ちます。

100ml: 31,900円 40ml: 15,400円 15ml: 8,800円

「ノッテテンポ」は真夜中の虚ろな時間に着想を得たオードパルファム。大聖堂の上で星々が瞬く夜、情熱を呼び覚まし、決して明かされることのない秘密を守るかのように香り立ちます。アマレーナとラム酒をまとった琥珀色のフルーティなリキュールが濃厚なまろやかさを放ち、オークウッドとカカオが深みを与える。ブラックチェリーやダヴァナ、タヒチのバニラが重なり合い、漆黒の闇にどんな夢も叶えられるような幻想を描き出します。

100ml: 31,900円 40ml: 15,400円 15ml: 8,800円


INTERVIEW & TEXT MAKIKO AWATA